『海外メンタルタフネス講座』は、株式会社ライフバランスマネジメントの協力にて、アジア・中国でがんばる日本人の皆さんのメンタルタフネス強化のきっかけ作りを目指しています。第1回~3回までは対談形式となっております。
ITの企業に勤めているとドッグ・イヤーとかマウス・イヤーのペースで働かせられる、と良く聞く。しかしこれは経験をしてみるとわかることだが大げさな表現でもなんでもなく、まさにその通りなのだ。Sense of Urgency つまりいつも危機感をもって迅速に仕事を処理する感覚でないと生き残れない。
仕事は丁寧だが遅い、では生き残れない。上司の指示には翌日までにはなんらかの結果を示す感覚が必要だ。ドッグイヤーの感覚で働く、これは生意気な言い方を許してもらえばシリコンバレーの先端企業を実際に経験してからこそ体得した感覚である。IT企業では上司からのメールは週末にもどんどん入ってくる。月曜に出社して慌てて返事をだしているようではとても上司の評価は得られない。
ドッグイヤーは人間より8倍も速く時が進むが、まさにこの世界で動いているのがIT業界である。そんな世界で一番まずい事、つまり上司からの評価を落とす事、それはデュー・デイトに間に合わない事である。Due Date それは締め切り日の事だ。このディユーデイトがこれまたこれでもか、という短期間で上司や、米国本社からセットされる。
シスコ勤務時代、1998年の当時は、まだADSLと言うものが全く実験段階で、NTTがどこかで秘密に実験をしているらしい、程度の情報しかなかった。私などもADSLなど日本に果たして実現するのであろうか、などと思っていた。ブロードバンド時代の到来についての議論などはまだ真剣には相手にされなかった。何故ならNTTが誇るISDNがすごい勢いで日本をカバーしつつあった時代であったからだ。
ところがアメリカの本社ではADSLの伸長に合わせて新製品の開発が極秘で急ピッチに進められた。このピッチはとても人間技とは思えないスピードで製品とそれを動かすソフトウェアがシスコでは完成していったのだ。設計から数ヶ月で試作品ができあがったときはアメリカ人の技術開発のスピードには目を見張ったものだ。
アメリカは基礎研究などに時間と投資をするがじっくり取り組むので、コンセプトが決まれば日本企業の方がはるかに製品の開発スピードが速いという説もあるが、シスコなどは工場を持たないで、製造関係や物流はほとんどがアウトソーシングである。製品化へのスピード競争ではスケジュールや他の製品ラインなど、事業部ごとの難しい調整が日本のメーカーなどのようにはないのであろう、極めてスピードが速いのである。そのためにもアウトソース先の決定には徹底的にネットが使われている。そして前述したように担当マネジャーはパソコンを抱えて南米やアジア諸国を飛び回りリアルタイムで生産の委託先と交渉している。
これだけのペースの世界だと、「雑でもスピードが大事」とするメンタリティーが求められる。よく英語で
「クイック・アンド・ダーティ QUICK AND DIRTY」に仕上げろといわれた。私はこれを最初は早く仕上げる事、まあ汚くても、それでもしかたがない、という半ば妥協的な意味合いで取っていた。しかし実際にはこの言葉には
そんな悲観的な意味合いはない事に後になって気が付いた。
QUICK AND DIRTYは逆に前向きな意味合いがある。こんなペースで製造開発をやっていると
不良品も初期には多くなるのだが、これをアメリカ人はあまり気にしない。
「不良品は取り替えればいいだろう、いつでもアメリカから一晩で送ってやる」とよく言われた。これには日本のユーザーも目を丸くする。アメリカの製品開発者に言わせれば、
こんなに速く最先端を追いかけているのだから不良品はしょうがない、いずれ完成度は高まるさ、不良品なら良品と交換すればいい事だ、ミスはつきもの。時間こそが問題だ、ということなのである。
これには日本人の端くれである私は面食らってしまった。やはり
日本人は完璧主義を学校教育時代に植え付けられている。試験では時間ぎりぎりまで見直し完璧にして満点を目指す事を教えられてきた。米国の留学で驚いたのは試験で時間が余っているのに試験用紙を提出していく同級生があまりに多かったことだ。
恐らくITの最先端の企業では多少のミスがあっても速く終える方が良しとされるので、何でも速く提出するタイプの人間のほうがこの業界向きといえるかもしれない。
また米国では、特にITの社会では一つの専門性に秀でた人間が尊重されるので、日本の教育のように全科目平均的に秀でたいわゆる秀才型は米国では開花しにくいかもしれない。伝統的な日本企業でこのオールラウンド型の秀才が重んじられるのとは、全く逆である。
ミスをしても「しょうがない、気にするな」というアメリカ人のスタンスはある意味無責任ではあるが、アメリカ人のメンタルタフネスの源泉かもしれない。日本人は細かい事を気にしすぎる、完璧を求めすぎるのは国際的に見ても確かである。日本人の几帳面さは美徳であるが、これでメンタルタフネス度を低めてメンタルヘルスを悪化させてはいけないであろう。アメリカの完璧さにこだわらない感覚にも注目していきたいと思う。
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