【対談】 海外勤務者専門ドクター 佐野氏
X メンタルヘルス対策講師 渡部氏
第1回目のトピックス
・企業の背景と、中国の変化のスピード
・海外におけるストレス関連の労災、民事賠償の増加
・メンタルヘルス管理体制を構築することの重要さ
「切実な問題は、
中国のビジネス環境の変化があまりにも大きいということ」
佐野氏:
MDネットは、そもそも友人、知人のドクターが集まって設立した会社です。
海外駐在員のメンタルヘルス対策を支援しようと思ったきっかけは、僕自身がカナダに留学していたときに、メンタルヘルス関連の相談を受け、
海外では日本人の相談窓口が少ないことを気づき、必要性を感じたことが前提にあります。
ただ、これが医療機関としての窓口になると、法律の制約も厳しく、本当に必要なサービスが提供できない事情もありますので、友人、知人のドクターと株式会社を設立し、サービスとして始めることにしたのです。
渡部氏:
海外では、メンタル関連の相談窓口が少ないということに気づかれたのですね?
佐野氏:
はい。ただ海外の滞在者のメンタルケアが遅れているということよりも、滞在者の
精神疾患の発症率が非常に高いことが問題だと気づきました。
特に、この会社を始めて、中国からの相談数が圧倒的に多く、非常に疑問に思いました。
切実な問題は、
中国のビジネス環境の変化があまりにも大きいということですが、海外赴任をするということは、仕事以外の時間もその国で過ごすことになります。自ら望んで赴任してきたとはいえ、慣れない土地では仕事中だけではなく、日常生活を送る上でも緊張しますから、
24時間の緊張状態にあるわけです。さらに、異国の地で不測の事態が起こると、それは未経験のことばかりのため、緊張感のベースラインも上がっていきます。常にそんな状況に身を置いている方が多いためか、発症率が国内に比べて非常に高くなってしまうのです。
渡部氏:
最近は、ただでさえ中国を中心に駐在員数は増加傾向にありますよね。
佐野氏:
そうです。もちろん、外国へ飛び込もうという人たちなので、困難にぶつかってもやり遂げたいという意欲のある方が多いのですが、だからといって、
全員にストレスへの耐性があるとは限りません。海外のメンタルヘルスというと、環境によるストレスのことを考えがちですが、環境への適応性の問題など、個人レベルの問題もあるわけです。
それでも日本の本社のためにがんばっている赴任者を見ていると、医者として持っている精神学的な技術や知識を用いて、駐在員本人とご家族を「守る」ためのサービスを提供したいという思いが強くなります。
日本人駐在員が世界中の都市でも一番多い
上海で事態が深刻になっています。日本人の医師だからこそ気づいて提供できることを増やせないかと思い、この6月から日本人の専門医精神保健指定では、おそらく初めて中国での医師免許を取り、現地での診療活動をできるようにしました。GHCグローバルヘルスケアという外国人専門の機関がありますが、そこで
ストレス外来というサービスを始めました。個々の問題に対応しながら、今後は企業を過失から守るために、海外勤務者の労務管理といった組織レベルでのメンタルヘルス対策も支援したいと考えています。現地で働く人のメンタルヘルスケアを支援することで、現地の工場なり、事業所がより一層生産性を向上させ、ひいては、日本の経済全体も発展するだろうという気持ちがいつもどこかにあります。
「企業のトップや幹事にとって一番大事な社員のメンタルヘルス」
佐野氏:
そんな中で、組織レベルでのメンタルヘルス対策について豊富な経験をおもちの渡部社長のライフバランスマネジメント社(以下LBM) にご協力いただくことになりました。
渡部氏:
恐縮です。佐野先生がおっしゃったように、LBMは今、アドバンテッジリスクマネジメントグループ(以下ARMG)の一企業として、企業向けのメンタルヘルス対策のお手伝いをしています。ARMGは予防から復職支援まで手がけており、グループで、日本では最大手の企業グループを結成しています。LBMは、主に人事、人財開発部を通して組織の環境等に働きかけながら、
未然予防を中心に企業のメンタルヘルス対策を提供しています。
個人的な話になりますが、私の中国の思い出は、1982年に、日中友好協会の一員として訪問したことに遡ります。現在は中国の西北大学の客員教授も務めております。ビジネスの経験としても正直なところポシティブな関係も、ネガティブな関係もございましたが、個人的には非常に中国に思い入れがあって、好きな国なんですね。感覚が日本人に似ているところもあるからだと思います。だからといって、
全体をみればやはり文化の違う国ですから、国内の転勤や異動のような感覚で、社員を現地に派遣することには注意が必要だと感じています。
佐野氏:
ごもっともです。「中国は距離が近い」という感覚が強い為、とりあえず進出してみよう、という安易な発想から、赴任者の日常の生活のサポートや現地での労務管理などにさほど配慮することなく、進出されている日本企業が多いと感じています。何かあったら帰ってこられると考え、進出に踏み切っているようですが、現在の中国のように変化の激しい環境においては、過去の成功体験だけではなかなかうまくいきません。だからこそ、
土台となる知識をしっかりと持って、現在の状況を踏まえた上で、進出前の対策を講ずる必要があります。
渡部氏:
私自身も含めて、企業のトップや幹部の方は、ビジネススクールに行って、ファイナンスやマーケティングを専攻している方が多いですよね。ただ、
会社を経営していく中でも、一番持っているべきなのは社員のメンタルヘルスについての知識ではないでしょうか。リスクマネジメントやコンプライアンスの問題が騒がれている割には、
生産性にも直結する大事なメンタルヘルスの部分をブラックボックスにしてしまっているのではと感じています。
佐野氏:
ニュースにでていないだけで、社員がうつで帰国することになったから、撤退するなんて企業も多いですよ。
「海外における
ストレスに関連した労災、民事賠償の増加は必須」
佐野氏:
国内同様に、海外においても、このところ労災申請や民事賠償案件が増えているそうです。
皆さんあまりご存じないのですが、大前提として
日本の法律が向こうの合弁会社でも適用されるのです。実質、日本から命令されて中国に送られている人には、日本の労働安全衛生法とか自殺対策基本法などが、そっくりそのまま適用されます。裁判になって初めて弁護士同士が話し合って、判決が出て決まるものであるのかもしれないけれど、やはり実質上は適用されるというのが弁護士の見解なのです。
渡部氏:
毎年法律がめまぐるしく変わりますから、企業も情報を更新し続けないといけないですね。
気をつけなくてはいけないのは、勉強不足が理由で、会社が訴えられるなんて怖い話がいっぱいありますよね。
「知らなかったじゃ済まされない」ように、法律も厳しくなってきています。
「メンタル面での法的なリスクヘッジ体制の整備は急務」
渡部氏:
具体的に佐野先生から、企業の人事担当者に向けて、海外進出の前に組織として講じる対策へのアドバイスなどございますか?
佐野氏:
捉え方としてまず2つに分けて考えるといいと思います。
まず一つは、現地の駐在員。そこで非常に重要なのは、
駐在員とその家族を一単位として考えることですね。そこに、先ほど申し上げた
日本の労働安全衛生法とか自殺対策基本法等に従って対策を考えていくことですね。
もうひとつは、すごく基本的なことなのですが、組織として、
海外勤務者のための、オリジナルのケア体制を作るべきなのだと思いますね。
国内のほうが問題が多いので海外は後回し。今は何も問題があがってこない。そう、人事の方はおっしゃいますが、これは非常に危険です。
医療体制が整っていない海外こそ、何かあったら会社の責任が国内の場合とは比べようもないほど大きく降りかかってきます。金銭的なコスト負担も重いものです。利益ばかりに目を配るのではなく、ベストなコンディションで仕事をするための医療的な環境整備にもっと心を配るべきです。
リアルタイムでサポートを提供するためには、
労務管理と、メンタルヘルスケアがくっついているような体制が必要なのです。日本から、もう少し間接的に、そして手軽に、現地の事情がわかるようにシステムをつくり、拠点に対しての管理がきめ細かく対応されるようでないといけないと思います。
そして、就業規則といったような細かい部分の規則も決めると良いですね。
会社から、何回帰国を補助するかというような規則が決まってないところも結構あります。
ただでさえ、
意欲が高いエリートビジネスマンの方々ですから、加重なストレスを我慢してしまい、結果的に症状が重くなってしまうケースもありますしね。
赴任者のストレス状況を客観的に把握できるシステムがあれば、そうしたケースが防げるのではないでしょうか。
次回に続く
■プロフィール
佐野秀典 さの ひでのり
1989年 浜松医科大学卒。1993年浜松医科大学大学院修了後、1995年までトロント大学医学部にて精神薬理学の研究に従事。帰国後、浜松医科大学文部教官助手。1997年静岡市にて城北公園クリニックを開設。2006年株式会社MD.ネット創立。
現在、株式会社MD.ネット代表取締役社長、医療法人秀明会理事長、上海GHCストレス外来担当非常勤医師、早稲田大学理工学術院非常勤講師、厚生労働省静岡労働局顧問、財団法人海外職業訓練教会(OVTA)国際アドバイザー、上場企業数社のメンタルヘルス顧問医など医療、教育、行政面で要職を務めている。
渡部卓 わたなべ たかし
昭和31年生。神奈川県出身。早稲田大学卒業後、モービル石油㈱入社。米国コーネル大学で人事組織論を学び、引き続き、米国ノースウェスタン大学/ケロッグ経営大学院でMBAを取得。その後、大手外資系数社での米国本社を含む本部長、副社長職などを経て、2003年に㈱ライフバランスマネジメント 設立。
現在代表取締役社長。認定産業カウンセラー・心理相談員
中華人民共和国・西北工業大学(陝西省西安市)客員教授。
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