【対談】 海外勤務者専門ドクター 佐野氏
X メンタルヘルス対策講師 渡部氏
第2回目のトピックス
・エリートビジネスマンの否認傾向
・不安・緊張状態が引き金となるアルコール依存と薬物依存
・渡航前の研修でリスクマネジメントを強化する
「エリートビジネスマンは自身の経験からメンタルの症状を否認する傾向が強い」
渡部氏:
海外に赴任されるようなビジネスマンは、能力の高い方が多いですよね。
佐野氏:
そうですね。みなさん、普通のビジネスマン以上に仕事もできるし、信用もあったりします。 困難を乗り越えてきている人一倍タフな方たちですね。
渡部氏:
それでも、発症している例があるんですよね。
佐野氏:
はい。
ただ、国内の状況と異なるところは早期発見が国内以上に難しいところにあります。
エリートビジネスマンであるという、ある種のプライドから、メンタルヘルス不調を認めることが非常に難しいようです。困難を乗り越えてきた自分に、心の健康に不調が
出るわけがないと病状を否認してしまうんですね。
渡部氏:
彼らほど困難を乗り越えてきた経験のない、日本国内の一般社員でさえも、未だに「メンタルヘルス」に対してはネガティブなイメージを持っていますからね。
佐野氏:
薄々症状が一時的でないものだと気づき始めて、病院に行くこともあるようですが、最初から心療内科には行かないですからね。心臓に問題がある可能性を疑って、まず内科に行ってみる。そうすると、内科医からは異常ないと言われる。ただ、そう言われても、
中国の医療は日本と比較すると劣っていると考えてしまうようで、中国人の医師の判断を素直に信用することが難しいみたいですね。先入観といいますか、日本で調べたら、きっと何か異常が見つかるのではないか、と思うそうです。そうすると、メンタルからきている症状ではないかとは余計考えなくなりますね。
渡部氏:
本人自らは、なかなかメンタルヘルスに考えが回らないのですね。そういうところで、メンタルチェックリストみたいのがあると、早期発見につながるのではないですかね。
佐野氏:
そうそう、
すごく具体的な症状などがリストになっているようなものが良いですね。何かあったら相談してください、と言っても、相談してくる人は一人もいないですからね。こちらから、具体的にこういうことないですかって、プッシュすれば簡単に聞き出せることでも、自分にもメンタルヘルスに関連する症状が発症する可能性はないと考えている方に、自らの積極的な相談を期待するのは難しいことです。企業として知っていていただきたいことは、
駐在員本人が相談にきてから対応しようと考えていると、その時点ではもう手遅れであることが多いという現状です。
渡部氏:
自分は人一倍タフで困難を乗り越えてきたという経験が状況を悪化させているのですね。客観的に自分の症状を見ることは、国内においても難しいことですよね。海外でも、メンタルヘルス不調は、ストレスからくることが多く考えられますから、
定期的なストレスチェックが必要だと思います。他にも、国内のメンタルヘルスの問題と違う点はありますか?
佐野氏:
そうですね、あと2つありますね。一つは、
具合の悪くなるピークがあるということです。経常的な変化で、まず赴任後の2、3ヶ月は意外に何もないことが多いです。
3ヶ月を過ぎた頃から半年ぐらいをピークに1年後ぐらいまでに、体調の不良がまず現れてきます。そして段々とメンタルヘルス不調特有な症状も現れてきまして、2年目ぐらいまで続きますね。海外に限らず、メンタルヘルスの問題は2年間でひとくくりになるケースが多いですが、
2年を過ぎると症状が減少しますね。海外の場合、その頃に言葉のコミュニケーションにあんまり不便がなくなってきて、自由に聞き取れる、話せるようになることが症状に良い変化を起こすようです。ある意味、自分のペースを戻せるということじゃないでしょうか。
もう一つは、
地域性ですね。 中国でも、北京と上海ではストレス要因が異なるようです。実際に地域によって惹きつける日本人のタイプなども違いますから、環境と個人差ということが組み合わされるわけです。アジアといっても、インドネシアやベトナムだと、また更に違いますね。
会社側も、ただ海外に送るという意識であると、体制を整える際に十分とはいえないということに注意していただきたいですね。地域によって、現地の労働者との関係が異なる点も配慮に加える必要があるのではないでしょうか。
渡部氏:
コミュニケーションの取りにくさという影響について勘違いしてはいけないのは、
単純に語学力だけの問題ではないことですね。どんなに
流調に話すことができていてもノイローゼになる人もいますから。反対に、語学力が低くても、仕事を回せる方もいます。そうなると、最終的に本人がどれだけ現地で不安・緊張を感じているかということがポイントになってくるのではないでしょうか。
佐野氏:
そうですね。
一番始めにでてくるのが、不安緊張状態からくる症状です。たとえば、
胸が焦る感じや、息苦しい感じですね。動機や震えを感じる人もいます。
すべてそれが慢性的な疲労となり、疲れがとれないとい訴えるようになります。ある企業での渡渡航前アセスメントでは、健康状態が良好と考えられている
赴任予定者の23%がハイリスクと分類され、そのうちの50%が不安状態、不安発作、そしてパニック発作が起こる可能性、また、残りの50%の方は抑うつになる可能性があるという結果がでました。
「緊張・不安状態から解き放たれるためにアルコール依存、薬物依存に陥る可能性も高い」
渡部氏:
中国でそんなふうに不安神経障害という症状をだされる方が多い中で、
アルコール、または一部薬物の依存状態に陥ってしまうことがあるようですね。そんな頻度が増えると、うつとか、うつ病になってきますよね。
佐野氏:
全く渡部さんがおっしゃるとおりです。典型的なのは、日本にいるときは、非飲酒だったのが現地で接待などを通してアルコール乱用が重なるケースですね。
アルコールを飲むとそれまでの緊張・不安症状がなくなるため、つい飲むようになります。不眠からアルコールを飲んで寝るようになる方もいらっしゃいます。また、回数が増えてくるとだんだん飲めるようになってきて、肝臓の酵素も活性化してきます。分解が早くなると、一気に依存症状が進むことになるのです。
渡部氏:
薬物依存も多いそうですね。
佐野氏:
ナイーブな内容だけに、なかなか表に出ないことがほとんどですが、
日本で想像している以上に現地の駐在員の健康を脅かす原因になっています。特に、最近では日本にも輸入されているNDMA という覚せい剤と幻覚剤を併せた錠剤には注意が必要です。もともとは、オランダで作られていましたが、中国で作ると100分の1の値段でできることから、中国・香港で流行しています。
渡部氏:
薬物の対策を講ずるということは、なかなか日本の会社では難しいことだと思いますが、海外勤務のリスク管理の一環としてぜひ取り組んでいただきたい ですね。大事な社員を守るためにも、その必要性は高いと思います。現地での管理もしっかりする必要があることには変わりませんが、渡航前の研修に必須で取り入れるところから、始めてみてはいかがでしょうか?
「各個人のガンバリズムに頼らず、企業で提供する研修を充実させる」
佐野氏:
渡航前の研修について、もう少し内容を見直してみるだけでもリスクマネジメントの改善になると思います。現地の情報提供を増やすと、リスクも、各個人の負担もずいぶん減るのではないでしょうか。
引越を考えてみても、国内の引越しとはずいぶん異なります。中国に限らず、ほとんどの外国の場合、日本にあるようなきめ細かなサービスはあまり期待できないですし、どちらかというと基本的なサービスもままならないことがあります。たとえば、送られた荷物が途中で紛失してしまうことも日常茶飯事なことなんです。責任も大きい業務を任せるのだし、せめて基本の生活に支障をきたさないように、会社側で手伝ってあげても良いのではないでしょうか。
社内で分からないことも多いでしょうから、外部機関に委託することも可能です。
渡部氏:
各個人のガンバリズムに期待してしまうと、問題が出てしまうことが多いですよね。環境が異なりますから、どんなに気をつけても予想外のことは多々ありますよ。個人で動くだけでは日本と同じようにはいかないということですね。そこは、送る側の会社で補ってあげる必要があるわけです。
駐在員の生活についても、企業の過失とならないようにリスクマネジメントの一環として考えることが大事だと思います。
佐野氏:
日本国内でもメタボ検診始まりましたよね。業務とは直接つながらないメディカル全体、生活部分のリスクマネジメントをし始めているわけですから、手の届きにくい国外の社員に関しても、その視点を忘れないでいただきたいですね。
自分の会社は大丈夫だろうという考え方は、リスクマネジメントになっていないのではないですかね。
渡部氏:
メンタルヘルスについても同じことがいえると思います。もう
世の中全体が悪いということは明確ですから、何かがあってから社長・役員会に報告することを躊躇しているよりも、世の中の流れにのり、問題が起こらないように事前の対策をちゃんとできる状況になってきていると思いますね。
佐野氏:
会社の環境が悪いとか、そういう問題でないことを知っていただきたいですね。
統計学的にもどんなに努力をしたって、人口の3%はメンタルヘルスの問題が出てしまうということがわかっています。30人に1人はそうなる可能性が高いということですからね 。
次回に続く
■プロフィール
佐野秀典 さの ひでのり
1989年 浜松医科大学卒。1993年浜松医科大学大学院修了後、1995年までトロント大学医学部にて精神薬理学の研究に従事。帰国後、浜松医科大学文部教官助手。1997年静岡市にて城北公園クリニックを開設。2006年株式会社MD.ネット創立。
現在、株式会社MD.ネット代表取締役社長、医療法人秀明会理事長、上海GHCストレス外来担当非常勤医師、早稲田大学理工学術院非常勤講師、厚生労働省静岡労働局顧問、財団法人海外職業訓練教会(OVTA)国際アドバイザー、上場企業数社のメンタルヘルス顧問医など医療、教育、行政面で要職を務めている。
渡部卓 わたなべ たかし
昭和31年生。神奈川県出身。早稲田大学卒業後、モービル石油㈱入社。米国コーネル大学で人事組織論を学び、引き続き、米国ノースウェスタン大学/ケロッグ経営大学院でMBAを取得。その後、大手外資系数社での米国本社を含む本部長、副社長職などを経て、2003年に㈱ライフバランスマネジメント 設立。
現在代表取締役社長。認定産業カウンセラー・心理相談員
中華人民共和国・西北工業大学(陝西省西安市)客員教授。
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