日本人同士の対人関係と家族の葛藤
駐在員のストレス要因のうち、本社サイドとの葛藤の次に多いのが、
日本人同士の対人関係に起因するものだ。日本でも同じような対人関係上の葛藤はあるが、海外の閉じられた環境では、それが濃縮された形で発現するというわけだ。
中国は広く、滞在する日本人の数も多い。しかしその広さとは裏腹に、日本人が属するコミュニティは狭く閉じられている。大手企業であっても駐在員数人規模というケースは珍しくなく、現地に
滞在する日本人同士の対人関係が円滑でないときの緊張や孤独の高まりは想像以上に深刻なのである。
また、
帯同家族に関する問題が多いことも、中国がらみの相談の特徴だ。駐在員の家族は、仕事をする本人以上に「閉じられた世界」での生活を余儀なくされており、それが駐在員本人のストレスになっているというケースが非常に多いのである。中国の
駐在員は、自分自身の対人関係だけでなく、家族一人ひとりの対人関係や家族内部の葛藤をも抱え込みがちなのだ。
このように、在中邦人の多くがストレスを抱えているとはいっても、もちろん、すべての邦人の精神状態が悪化しているわけではない。では、同じような状況下にあっても、精神状態が悪化する人とそうでない人がいるのはなぜか。メンタルヘルスの基本的な考え方に沿って説明しよう。
「心」の3つの状態
私たちは、心の状態を、ホ
ワイトゾーン、グレーゾーン、ブラックゾーンの3つの領域で捉えている(図1)。
この3つのゾーンは「状態」を意味し、それぞれの領域の境界は必ずしも明確ではない。
ホワイトゾーンとは精神的に健康な状態のことであり、図の矢印がブラックゾーンに近づいてもまた再び戻っているように、もともと健康な人はひどいトラブルに巻き込まれて深く落ち込んだとしても、時間の経過とともに自然に回復していく。一方、
ブラックゾーンとは、うつ病や強迫性障害、統合失調症など、診断基準に当てはまる疾病領域にある状態を指している。したがって、職場や学校に行けない、風呂に入れない、食事ができないなど、
基本的な日常生活に支障をきたすようであれば、このゾーンに入る。そして
ホワイトゾーンとブラックゾーンの間に位置するのがグレーゾーンだ。原因不明の慢性の身体症状が持続したり、遅刻、欠勤、早退や単純なミスなどを繰り返すなど、日常生活にそれほど支障はなくても、社会生活には悪影響を及ぼすような精神状態を指す。
メンタルコンディションはこの図の矢印のように常に行ったり来たりするものであり、一箇所にとどまることはない。しかし海外に滞在していると、グレーゾーンがじわじわとホワイトゾーンを侵食していくのである。私たちの印象では、特に中国ではグレーゾーンのコンディションにある邦人が極めて多い。
閉じられた世界でプレッシャーを受け続けているうちに、グレーゾーンから抜け出せなくなってしまうケースが目立つのである。留意すべきことは、
自殺は、いわゆるグレーゾーンの状態でも十分に起こり得るということだ。
精神的な問題は、悩みが深くなって起こる「健康範囲の問題」と診断基準にあてはまる「疾病としての問題」が常に混在しているものだが、この
グレーゾーンの状態を捉えるときに重要なのが、ホワイトゾーン(健康領域)由来なのかブラックゾーン(疾病領域)由来なのか、という見極めだ。予防もケアの仕方も周囲の対処法も、各々まったく異なったものになってくるからだ。
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