外部からのストレスは心の持ち方、考え方次第で変わり、ある人には苦痛になりまたある人にはチャレンジとして、またある人にはとるに足らない事として千差万別にとらえられる。
フジテレビのドキュメンタリー番組で大賞をとった番組「とうちゃんはエジソン」の主人公、御年69歳の加藤氏の生き方考え方には大きな感銘を受けた。加藤氏は今から14年前、機械作業において、右手を肩から切断してしまうという大事故を被られた。しかしこの大事故の後、自分の右手に代わる補助器具を全く自力で作り上げ今では日常の生活にはほとんど不便がないまでになっている。それだけでも感動してしまうのに、「人の喜ぶ顔が見たい」一心で四肢がほとんど動かない重度の障害者が切望して止まなかった夢の道具を発明してしまう。それは人の手を借りないで自分のあごを使って操作するワープロと発声器の機能を併せ持ったものである。これは大企業での開発苦心談ではないのである。
気負いもなく、名誉心もなくカラカラと笑う加藤さんには右手を失った暗さはひとかけらもない。
「右手を失った代わりにもっと大切なモノを得る事が出来た」と加藤さんは言う。さらに
「幸せや不幸を決めるのは外部の要因、それは地位や名誉やましてお金ではなく自分の心にある」というのだ。こういう人生の真理を気負いも無くあっさりと世の中に示すすごい人もいるのだという事をまざまざと見せつけてくれた傑作の番組であった。ただ人間が愚かなのはその感激をすぐに忘れてしまい日常的なストレスに一喜一憂してしまい元の自分に戻ってしまう事である。
ウツなどの心の不調は外部からのストレスを悲観的な方向に解釈しようとする悪い癖のせいで、悲しみや苦しみや怒りなどの不安定な感情を心に住まわせてしまう事から発生する。そしてその感情がひきこもり、自傷行動などの問題を起こしてしまう。その行動でまた感情が阻害され、悪循環が続く。実際の認知療法のカウンセリングではこの悪い方向に引っ張ってしまう認知の癖をカウンセラーとの対談のなかで指摘してもらいながら矯正していく。
心の悩みを抱えてしまいうつ病になってしまう前に、やはりそうならない予防が肝心なのである。そのためには繰り返し述べてきているようにストレスへの「気づき」と自分の考えが偏ったものにならないための第三者的なセルフチェックの習慣が重要である。
育ってきた家庭環境や教育環境、職場環境など外部の刺激や対人関係がその人の考え方、に大きな影響を与えて各人の認知を形作っている。いろんな環境に身をおくことで様々な考え方が身についてくるわけだから、一つの環境にあまりに長くとどまるとこの柔軟性がそだちにくく自ら発想を転換させる事ができにくくなる。
柔軟な思考をもつと自然とメンタルタフネスが強化するし、実際うつ病の発生を押さえるのに役立つのは間違いがない。少子化の影響もあり過保護に育てられた若い世代の社員は住み慣れた自宅をはなれ地方や工場に勤務するのを嫌がる傾向がある。最近では海外勤務も敬遠されるらしい。留学はいいが海外勤務はいやだなどという新入社員の本音もあるらしい。
充実した人生を送る為にはメンタルタフネスがIQよりもはるかに重要なのであり、仕事においては現場の営業経験や異国の経験、本社より支店や工場、物流センター、店頭などの現場の体験は志願をしてでもキャリアに加えるように意欲をもってほしいと思う。
偏差値至上主義や有名校偏重、有名企業へのあこがれなど固定した価値観しかもたない親に子供達が教育されると、その子供達はストレス耐性が不足してメンタル不全をひきおこす可能性がでてくる事は容易に想像される事である。繰り返しになるが偏差値やIQとストレス耐性との相関関係は低い。
可愛い子には旅をさせよ、という諺は現代でも100%通用するのである。また成人であれば我が身に言い聞かせて不自由な旅に出る必要がある。
アメリカのように
多民族で他宗教、所得の階層も多様であれば、自然と考え方や価値観は多様化する。アメリカでは大学にしても企業にしても偏差値のようなもので序列をつける事に、日本人のようなこだわらない。どの大学、どの企業がランク上トップであるか、などというような認識もないし興味もないのである。日本でも「ナンバーワンよりオンリーワン」と歌われ出したのは素晴らしいことだ。あのSMAPの歌が若者に与えた心理的な影響と貢献は高く評価されてしかるべきであろう。
「ナンバーワンよりオンリーワン」の考えはまさにメンタルタフネスを高め、うつ病の予防になる考え方に通じるのだ。親、教育者、経営者は社会に影響を与える立場の人間であることを自覚し、子供達や社員の柔軟な思考を育てる責務を負っていると言えるのだ。
感情を理解する
人間は感情の生き物であるからこの感情を理解するという事は人間を理解する事につながる。感情学という学問があるらしいが耳になじみがないので調べてみた事がある。
日本では唯一、同志社大学のヒューマン・セキュリティ研究センターが総合感情学という領域を研究しているらしい。安心感、安全性の本質を見極め、誰もが安心して暮らす事のできる幸福な社会のあり方を見つけるための学際的・国際的研究・教育訓練を推進する拠点として2003年に創設されたとある。さすが同志社の視点はユニークだ。
また感情学入門という副題で、「感情を知る」という本が富山医科薬科大学の福田 正治教授によって書かれているが、感情学を題名であつかった本はこれのみである。心理学が感情学も包括しているという考え方をすれば、EQも「感情学」の一分野といえるかもしれない。
EQについては誰でも多かれ少なかれ耳にしたことがあるだろう。大ベストセラー『EQ~こころの知能指数』が著者ダニエル・ゴールマン博士によって1995年に出版されると、またたく間にEQという言葉は世界に広まった。EQはEmotional Intelligenceの略で「こころの知能指数」と訳されている。社会で成功していくために大切なのは、IQではなくEQ(こころの知能指数)なのだ、という主張はこれまでIQ(知能指数)偏重に批判的だった世論にも強く支持された。教育や家庭、ビジネスでのIQ神話や偏差値主義の常識を動かし日本人の価値観にも影響を与えた事は事実であろう。
社会で成功するためにはIQではなく、EQが大切であり、人の本当の能力や魅力はIQには連動しない事、そしてIQや偏差値、大学のランキングなどの信奉で歪んだ社会や企業の病理を曝き本当の知性や魅力とは何かという事を説いた本である。
このIQとEQの話がでる時私がいつも思い出すのは「男はつらいよ」のフーテンの寅さんである。寅さんはIQこそ低いがEQは最高に高い人物だと思うからである。私は学生の頃からこのフーテンの寅さんシリーズの大ファンであり初回から最終回まですべて見ているのは勿論の事、浅岡ルリ子などお気に入りのマドンナのものはせりふを暗唱できるくらい繰り返してみている。
うつ病の予防には多種多様な考え方、物の見方を身につけなくてはならないのであるが、この映画でフーテンの寅さんが、様々な価値観を持った人間達と出会い、心の交流を深める姿がいとおしく、共に笑い、怒り、泣くことが出来るのである。そして見終わった後に必ず元気をもらうのである。
心理学やカウンセリングを学んだ人であれば理解できると思うが、このフーテンの寅さんの傾聴力や共感力はプロのカウンセラーも顔負けであろう。寅さんシリーズは国宝物であると思っているのだが一度も見た事がないという若い社員が多くなっているのは残念な事だ。カウンセリングや傾聴を学ぼうとする人は是非レンタルして見てもらいたいと思っている。
→第12回のご案内(3/26UP予定)
スピード社会のメンタルタフネス
By 株式会社ライフバランスマネジメント 渡部 卓
アメリカは基礎研究などに時間と投資をするがじっくり取り組むので、コンセプトが決まれば日本企業の方がはるかに製品の開発スピードが速いという説もあるが、シスコなどは工場を持たないで、製造関係や物流はほとんどがアウトソーシングである。製品化へのスピード競争ではスケジュールや他の製品ラインなど、事業部ごとの難しい調整が日本のメーカーなどのようにはないのであろう、極めてスピードが速いのである。そのためにもアウトソース先の決定には徹底的にネットが使われている。そして前述したように担当マネジャーはパソコンを抱えて南米やアジア諸国を飛び回りリアルタイムで生産の委託先と交渉している。
これだけのペースの世界だと、「雑でもスピードが大事」とするメンタリティーが求められる。よく英語で「クイック・アンド・ダーティ QUICK AND DIRTY」に仕上げろといわれた。私はこれを最初は早く仕上げる事、まあ汚くても、それでもしかたがない、という半ば妥協的な意味合いで取っていた。しかし実際にはこの言葉にはそんな悲観的な意味合いはない事に後になって気が付いた。
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